まったくモテない41歳独身底辺男が流されるがままに適当に生きながらもがき足掻く日記
そうなってくると人間の脳とは不思議なもので、それはもう「典型的なオバちゃん」ではなく、A子としか見えなくなっていた。
彼女とは中学時代ほとんど接点もなく、ろくに声すら聞いたことがなかったのでどんな性格かというのはよくわからなかったが、俺が中学時代に想像していた性格よりだいぶおしゃべりで「陽」な人だった。
その俺の勝手な脳内ギャップも手伝って俺の脳はA子の認識を遅らせた。
しかしこのA子の件で俺の脳の倒錯感は頂点に達していた。
いやが上にも心が躍る。

もうこんなふうに会える機会などないかもしれないし、一言でもA子と話がしたいと思ったが、向こうのテーブルは4.5人で一杯になるような狭いテーブル席(イスではない)であり、またA子を含めそのテーブルの女4人とは当時もそれ以降もほとんどしゃべったことがないどころか俺のことを知ってるかどうかも怪しい感じなので、余計に入り込む隙がなかった。
「あれ、ごめん、誰だっけ?」とか真顔で言われるのもきつかろう。

そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ去り、幹事がこの店の予約は9時までだからとか言い出した。
いやいやまだ全然話足りんだろ、と思っていたら誰かが「2次会やろう」と言ってくれたのでホッとした。

店を出て当然全体写真の1枚や2枚、スマホで各々が写メの1枚や2枚撮るものかと思っていたが、なぜか誰ひとりとしてシャッターを切るものはおらず、facebookでよくある飲み会画像の中で戯れるリア充な俺、みたいな図がタイムラインに流れるというほのかな期待は崩れ去った。

その後、半数近くはその場でお開きとなり、後の半数は2次会に参加する流れになった。
A子も2次会組について来ているようだった。

幹事は2次会をやるものとは思っていなかったのだろう、これから2次会の店を急遽探すことになった。
10人くらいいたと思うが、しかし30代も半ばでまさか中学の同級生だけでこうやって夜の街をザッザッと練り歩くとは当時も今も夢にも思っていなかった。
なにかこうやってみなで練り歩いているだけでも愉快な気分になってくる。

2次会の店が見つかり、個室に入って俺が入り口付近に座っていたらA子が入ってきたので俺が
「あれ、俺のこと知らないでしょ?」
と少しおどけた感じで言うとA子は
「? ○○君でしょ。」
と真顔で言ってきた。どうやら俺のことは知っているらしかった。

しかしまあ、その流れで俺の座っている近くに座ってくれればいいものを、向こうの方に座ってしまったので、2次会の席でもA子とじっくり話す機会はなかった。
とはいえ、当時の共通話題などでみなと一緒に盛り上がってしゃべるという形でその場を共有することはできた。

しかし楽しい宴というのは本当に時間の経過が早い。あっという間に0時近くになった。
もう終電がなくなるということでお開きとなった。
とはいえ、みな電車で来ており、駅の方向は同じなので駅までまた一団で歩いていると後ろからA子が
「あ、facebookのメール送っておくね」
と言ってきた。
なぜか複雑な気分になった。これが10年前とかでむこうも独り身であればまた違った感情になったのかもしれない。

そうこうしているうちに改札の前まできた。みな電車の時刻表の電光掲示板を見ていた。
そこでひとつちょっとした問題が起きた。まだ0時を回ってなく、みな電車があるのになぜか俺の終電はもうなくなっていた。
なぜかというのも変だが・・・しかし居酒屋を出るときにみな終電の時刻をチェックしていたときに、みなが終電は何時まであるから大丈夫みたいな話をしていたので、最も都会寄りに住んでいる俺は当然1時くらいまで終電があるだろうと思ってあえてチェックしなかったのだが、しかしよくよく考えてみると夜中に下りの終電より上りの終電の方が早く無くなるのが当たり前といえば当たり前である。

「あれ、俺終電もう無いわ(笑)」
なんて言ってるとA子が
「最寄り駅どこ?」
と言うので俺が○○駅だというと、
「私が帰る路線の方からは帰れないの?」
などと言うので、どの路線でどこまで行くのか聞いたら、それまで俺の頭の片隅にもなかったローカル私鉄であった。
とはいえ、方角的に、また直線距離的にもA子と俺の家とは案外離れているわけではなく、その私鉄からまた乗り換えることによって俺の最寄り駅まで帰ることも可能であったが、その線はすでに終電が終わっていた。

でもまあ終電がある駅まで行って、そこからタクシーで帰ってもさほど大した距離でもないのでそうすることにした。
というよりもはや終電があるかないかなんてどうでもよかった。むしろ終電がなくてありがたいと思った。

飲み会のターミナル駅の改札口の段階で方角の違いから2次会グループもすでに半々になっていたが、電車が駅を通過するにつれどんどん人が減り、最後このローカル私鉄に乗り換えるのは俺とA子だけになった。

もし恋愛の神様というものがいるとすれば、なかなか粋な、それでいてにくい計らいをするものだと思った。
中学時代声すら聞いたことがないほど接点を与えず、その後のボーナスステージ、いわばゲームクリア後の最後のエクストラステージみたいなところでこれか。本編ではなくスピンオフみたいなところで。

JRから私鉄への乗り換えはすぐだった。私鉄はすでに駅で待っている状態だったので乗り換えの時に話をする機会は無かった。
私鉄に乗り込んだ。俺にしてみれば初めての私鉄だった。
座席は終電に近いというのにほとんど客で埋まっていた。いや実際には空いている席もあったかもしれない。2人して座席の前に立った。
A子は俺より先に数駅で降りる。時間にして10分ほどだった。
俺に与えられたボーナスタイムは10分ということだ。
俺はあることを伝えねばならないと思った。しかもそれを今伝えないとおそらく一生後悔するだろう。
いやもうとっくに後悔したままここまで20数年経過してしまったわけだが、このボーナスステージ、エクストラステージにてさらに後悔を積み増すこともなかろう。

とはいえこの状態からどう話をもっていけばよいのか。今までろくに2人きりで話をしたこともない上に時間は10分ほどしかない。
あっという間に次の駅に到着する。
そうこうしているうちにA子がさっき飲み会のときに話題に出た男子同級生の話題を出してきた。
この男子同級生はA子と同じ部活動に所属しており、かつ3年次はA子と同じクラスであった。
この同級生の話題は好都合だった。なにせ俺は京都の修学旅行の帰りの新幹線の中で、この同級生にA子の写真を撮ってきてもらうように頼んだからだ。

「そういえば俺、修学旅行のときにあいつにAちゃんの写真を撮ってきてって頼んだんだよねー」
「えー?!二人(俺とA子)で撮ったの?!」
「いや、Aちゃんだけ・・・あ、二人で撮ればよかったか(笑)」
「えー!」
「だってAちゃんメチャメチャ可愛かったからねー。今もその写真まだ持ってるよ。てか覚えてないの?」
「えーー!早く言ってよー!あの頃に戻りたい!」

当時俺は、A子がこの一連の事実を知っているものだと思っていた。つまり俺という奴が自分の写真を欲しがっていてそれを男子同級生を通してあげた、という事実だ。
というのも、あのような自分の写真を撮らせる前にとりあえず誰から頼まれたのかということをその男子同級生に訊ねるのが普通だと思うからだ。
だから俺はその後、校内で数えるほどの彼女との偶然の遭遇のときには赤面したものだった。
それを本当に知らなかったというのか、それとも写真を二人で撮ったのかと聞いてくるくらいだからその頃のことはすっかり忘れてしまったのか。

そんな車内の束の間の一瞬の中で彼女が降りる駅名がアナウンスで無機質に流れた。
ふと前を見れば、真っ黒い窓ガラスには俺と、ケタケタと笑うA子の姿があった。
電車はあっという間に停車した。
「あ、もう降りなきゃ」
A子はそう言い残すと、とくに振り返るでもなく颯爽と駅の階段へと消えていった。


後日、実家に帰ったときにその写真を探してみた。
長らく見ていないが、確かにあるはずだ。
ほどなくしてそれは見つかった。中学の頃使っていたと思われる長財布の中に入っていた。
写真は新幹線のデッキと思われるドアの前で撮られていた。
多少セピア掛かってきていたその中で、しかしこちらに投げかけてくるその屈託の無い笑顔と眼差しはまったくもって色褪せていなかった。


<終>



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【2016/06/06 19:48】 | 未分類
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なんとなく、映画「Love Letter」を思い出しました。 
soraya
青春時代に好きだった女の子と、時間を隔てて、再会するって、なんかいいですね〰。ナンパ復活にも期待してます(*^。^*)

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なんとなく、映画「Love Letter」を思い出しました。 
青春時代に好きだった女の子と、時間を隔てて、再会するって、なんかいいですね〰。ナンパ復活にも期待してます(*^。^*)
2016/06/07(Tue) 21:32 | URL  | soraya #-[ 編集]
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